やあ、同志よ私だ元気にしているかい?
資本主義の囚人シアンだ。
あんたは誰かって?
もう忘れてしまったのかい?てめーは誰だって言うヤツは
File.00_身も心も死んでいた【プロローグ】を参照してくれ。
今日は、27歳の時にと母の再婚相手の男に500万の借金を背負わされた話をしよう。
私の無知が産んだ馬鹿な話しだ、大いに笑ってくれ。
だが約束してほしい。これを読む以上は君は同じ轍を踏まないでほしい。
店舗移転前の失敗
当時私の母はある男と再婚していた。
喫茶店を営む男
白髪まじりのグレーの髪と丁寧に手入れされた鼻髭に、180㎝はあるだろうかスラッとした長身のもうすぐ60代になろうかというダンディオヤジだ。
チョイ悪オヤジ雑誌「LEON」に出てきそうな風貌の持ち主だ。
この男が経営する喫茶店はこだわりの珈琲を種類多く提供し、サイドメニューもオリジナリティのあるものしかない。
「他と同じものは店には出さない」
というこだわりと「本物」に対する憧れのようなものを持ち合わせていたから、味は一等品。
地方の小さな都市であるにも関わらず喫茶店の経営だけで十分食っていくことができていた。
小規模の喫茶店ではあったが、売上も順調では地域でトップクラス
職人気質な男の作るものは喫茶店でありながらちょっとした創作レストランをしのぐものばかり。
必然的に地域の飲食業界人に一目置かれる人物だった。
しかしこの男には絶対的に足りていないものがあった。
それは経営者として一家の大黒柱としての自覚である。
私の妹が店を手伝ううちに自然と後継者のようになっていたから、
将来を見据えて男は店を大きくすると意気込んだでいた。
(妹は店を大きくしてほしいとは言っていない)
「今の店を畳んで、他の土地にもっと大きな店を出そう」
男というものは順調なときは、もっともっとと果ての無い野望を持つ。それ自体はむしろ必要な向上心だといえる。
だが、バカななことに移転先を決めないまま早々に店をたたんだ。
家事は母がしていたから仕事もなく男の生活は呑気なものだった。
責任のある人間ならば本来「営業できない日を最小限に」と意識して土地を探し店を建て、移転し営業を再開するだろう。
でなければ喫茶店で食っている一家の収入は中長期的に絶たれてしまうからだ。
その部分でこの男の考えは甘すぎた。
バブル世代の気合いと根性、勢いでなんとかなるって精神論を唱える奴だ。
次を決められないままダラダラと時間は流れ・・・
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1年半もの間、無収入。
しかも家族がいる。
これまで移転用に貯蓄していた資金は、生活費にほとんどが消えていた。
そんな中ようやくめぼしい土地が見つかった
大通りから一本側道に入り多少交通量がある道路に面した約200坪の土地
古家がついていたからこれをリノベーションするか取り壊して新築するかになるが、男は金のかかる「新築」を選んだ。
新店舗建設のための見積もりを取ると・・・
なんと4,000万円も必要だということが分かった。
そんな大金を貯蓄のない現在無職に近い自営業の男に銀行が融資する事は無いに等しい。
地主でけっこうな家賃収入があるなど相当な信用力が無ければ非常に難しいのだ。
補足するが私の住んでいた地域は、日本屈指の低賃金地域だから世帯平均年収は260万とかなり低い水準にある。
サラリーマンに限るが借りやすいと言われれる住宅ローンであっても4,000万円を用意すること自体が難しい土地柄。
店を再開させるためには、どうしても銀行の融資を引っ張り出さなくてはいけない・・・
そこで男がとった行動とは…
再婚相手である母の親族からあの手この手でお金を借りまくることだった。
身なりを整え、母を連れ、手土産を持ち、男は物腰柔らかに母の親族に金の無心をする・・・そんな様子が脳裏にまざまざと思い浮かぶ。
実際にはどういう話術で金を引っ張り出したのかまで私は知らないが、4000万円の融資のための頭金だから貸す側も情にほだされただけで貸せる金額ではない。
一種の博打のようなものである。
ここであなたは疑問に思うことがあるはずだ。
「男がなぜ自分の親族から金を借りないのか、なぜ疑問に思わなかったのか?」
理由は2つある
1つはこの男の出身地だ。
海を渡らねば帰れない四国が故郷だ。
だからこのときは「そんな遠いところのしかも十年以上ご無沙汰な親族は頼りにくいだろう」という考えと、
もう1つは男は入り婿として母の籍に入っていたから母の親戚筋を頼るのも当然で全く違和感がなかった。
今思えば、この男に旧知の知人や親族がいなかった事に、もっと疑問を持つべきだったのだ。
無責任だからこそ無計画でいられる。行き当たりばったりでも「誰かの金を頼れば何とかなるのさ」そういった生き方が染みついている。
この男は情に訴えるのがこの上なく上手く、
見た目振る舞いは紳士そのものだから皆この男の本質に気づかない。
この男はそうやっていつも紳士の皮を被って生きてきたのだろう・・・
この男にの周りに親族や旧知の友人がいないのは、この男に裏切られたからだろう・・・
私のように。
親族からの金の強奪
自営業でも3期分の黒字決算書と多額の頭金があれば、銀行の融資を受けやすくなる。
いわば「見せ金と言うやつだ」当然だが「現金=信用」単純な世の中である。
本当に口の上手い男だった。
詐欺レベルの話術と落ち着いたダンディな雰囲気をあわせ持ち、獲物の心を射止める。
その才能は天性のものだとしか思えない。
だから大概の人間はこの男の夢物語に丸め込まれた。
恥ずかしいが私もその一人である。
母の幸せを思うとこの男の頼みを断ることができなかったのだ。
世話になっているお互い様だと…
情にほだされただけなのに、私は義理を通したつもりになっていた。
当時26歳、このとき貸した金は100万円
遠距離だった彼女との結婚費用にと貯めた金だった。
改めて思うがバカなことだ。
あとから知った話だが、男は私の祖母にまで金を借りていた。
なんと総額1,000万円
プロ詐欺師が年寄りを狙う理由が良く分かる。
悪意あるなしに関わらず、この手の才能を持った人間は相手の「良心」と「不安」に訴えかけるのが恐ろしいほど上手い。
まんまと自分のペースに取り込むのだ。
そうして集めた資金を見せ金にして銀行の融資が通り
ようやく新店舗が建った。
それはそれは、立派な面構えの店が出来上がったのだが…
本当の悪夢は、ここから始まるということにまだ私は、気づいていなかった。